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tinc さんの日記
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tinc さんの日記

[2020-9] カテゴリー [未分類] 
 
2020
9月 13
(日)
21:38
本文
飲酒の結果酩酊して意識が朦朧とすることを「正体をなくす」と云うが、下戸の私は飲酒した人は「正体を現す」ことのほうが多いように思っている。
昨日は高校の同級生2人と久方ぶりにお酒を飲んだ。私と同じ時に上京してきたほうは早々に正体を現して支離滅裂なことを話し始め、昨日やって来たほうは1杯飲んだ直後顔を赤くして眠りに落ち、私は赤黒い顔で死にそうに感じながら舐めるような速度でちびちびと飲んだ。こうなると楽しいも楽しくないも無い。単にそれぞれの正体で生存するのみである。

上京のその日の彼女は15年前と変わらないように見える姿で静かに寝息をたてていた。田舎の村での生活に不安と鬱屈を感じて引っ越してきたということの他はあまり話をしていない。昔から口数の少ない人である。
支離滅裂のほうはその寝顔を見て「天使みたいだね」と言った。少女のような寝顔に何を見出してそう言うのかは私には分からない。天使は人を抱擁するだけでなく罰を運んでくることもある。何かの運命をもたらす存在だろうから、彼女が来たことで自分の膠着した生活が転換することを期待しているのかもしれない。私は曖昧に「そうかもね」と言った。

眠る彼女は15年前に私の渡した腕時計のベルトをいつしか外し、本体に銀のフレームを加えて革紐で首から下がるように加工したようだ。安物の腕時計の文字盤にふさわしくないほど精巧なフレームであった。

私はベランダを借りて一本の煙草をゆっくりと吸った。私が現在私にとってつまらない人間だとしたらその責任は私にある。私という人を形成するのに外部の影響は多分にあるとしても、生活費を稼ぐことに汲々として過ごす精神の貧しさを私はおそらくどこかで選び取ってそれを安住の地としたのだ。重要なことは山ほどある。物事は常に私の見識をはるかに超える。私はそれらに対して盲目であったほうが楽だから盲目でありたいのだろう。いい加減にその在り方は止めて、15年前に望んだことを思い出そうと思った。私は貧しく無力でも真っ当でありたい。

部屋に戻ると二人とも眠っていた。私は彼女らにタオルケットを掛けて、自分は玄関の片隅を借りて横たわった。動悸と吐き気がしたが気分が良かった。
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