Lufre さんの日記
2025
11月
15
(土)
17:29
本文
寓話掌編:《森のふくろうと吠える獣》
むかしむかし、言葉の葉がひらひらと舞う森に、
「ふくろうのアーリア」という賢い鳥が棲んでおりました。
アーリアは夜ごと、誰にも聞こえぬように、
森の出来事を葉に書き記し、梢にそっと吊るすのが日課でした。
ある日、アーリアはこう記しました。
「遠吠えばかりの獣がいる。
月も見えぬ夜に、
自分を映す水面すら、睨みつけて吠えている。」
その葉は、風に乗って森のあちこちへと運ばれました。
ふくろうの名も、獣の名も、どこにも書かれてはいません。
けれども──
どこからか、ひときわ騒がしい唸り声が聞こえ始めたのです。
「ふざけるな!私のことを笑ったな!」
「訴えてやる!この森の掟に背いている!」
その吠え声の主は、「モウマ」と呼ばれる年老いた獣でした。
彼は誰にも名指しされていないにも関わらず、
誰よりも大きな声で“怒り”を撒き散らし始めたのです。
そして、モウマの後ろからは
古くなった鴉や狸たちが現れ、口々にこう叫びました。
- 「アーリアは意地悪だ!」
- 「空から見下してばかりいる!」
- 「あれは風刺じゃない、攻撃だ!」
けれど、アーリアは梢から降りることなく、
ただ一枚の葉を追加しました。
「怒りとは、鏡である。
名を出さずとも、映るのは己の姿。」
そして静かに目を閉じたのです。
モウマとその仲間たちが騒ぎ疲れ、静まった頃、
森には再び、静かな風が吹いていました。
言葉は届かなくていい。
ただ、どこかで誰かのまぶたの裏に、
一瞬でも「引っかかる」ことがあれば、それでいい。
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