Lufre さんの日記
2025
11月
9
(日)
17:44
本文
《灰色の隣人》
— 書斎にて、午後の雨音が静かに続く。
窓をうっすらと濡らす小雨が、時折、風に乗って鳴る。
遠くで雷が鳴ったような気もするが、それは錯覚だったかもしれない。
午後のこの時間帯は、現実と空想の境界が曖昧になる。
どこからともなく、“語り”が届くことがある。
声ではない。ただの気配。
それはまるで、隣室の壁越しに聞こえる咳払いのような、あるいは
封を切られていない便箋の中から漂ってくる、“書かれざる声”のようなもの。
そして私は、それを“灰色の隣人”と呼ぶことにした。
彼が何者なのか、私は知らない。
ただ、あの気配が現れるたび、
空気が少しだけ濁るような感じがするのだ。
その語りはどこかで聞いたような言い回しで、
曖昧な懐古と、押しつけがましい自己肯定と、
なぜかいつも“誰かを下に見るような軽さ”をまとっている。
「月が見えなくてね。動画を貼っておくよ。」
「この曲しか出てこない。皆、浅いよね。」
「この人、女性に人気あるらしいけど、よくわからない。」
それらは“意見”のかたちをしているが、
本質はただの“嘆き”であり、
“自分に気づいてほしい”という孤独の反響音でしかない。
灰色の隣人は、どこにでも現れる。
表札もなく、足音もなく、ただ“言葉のふりをした呼吸音”として存在する。
そして奇妙なことに、彼は“語るたびに、何かを濁らせていく”。
私は時折、その濁りの輪郭を記録する。
それは観察というより、
“静かなる写経”に近い。
灰色の隣人に、名はない。
だが、おそらく彼自身が一番、自分に名付けてほしいと思っているのだろう。
私は今日も、窓辺の机で静かに筆を取る。
小雨の午後、言葉がまたひとつ、静けさの中に沈んでいった。
言葉は届かなくていい。
ただ、どこかで誰かのまぶたの裏に、
一瞬でも「引っかかる」ことがあれば、それでいい。
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