Lufre さんの日記
2025
10月
19
(日)
15:14
本文
ルフレの書斎より:序章 …書き始めの午後
書斎の窓辺に、曇り硝子を叩く雨音がある。
ペン先が紙をすべる音だけが、部屋に在る証のようだった。
誰かのために書くわけでもない。
かといって、自分のためだけでもない。
言葉とは時に、
声を上げぬ誰かの“無言の痛み”に触れてしまう。
だから私は、耳ではなく、目で読む者に向けて記すのだ。
名前など、ここには必要ない。
この部屋を訪れた誰かが、
声にならない思いに触れてしまったとき──
それが、“書く”ということの始まりなのかもしれない。
書棚には埃を被った詩集と、書きかけの便箋がいくつか並んでいる。
封をせず、宛名も記されていないそれらは、
かつて誰かに手渡そうとした言葉の亡骸だ。
ヴァランの爪音が、廊下を静かに横切る。
彼は無駄に吠えることをしない。
私より多くを見ているくせに、何も語らぬ犬である。
彼の静けさに、私は幾度となく救われてきた──
ペンを持つ手が止まり、外を見る。
灰色の空は、まだ何も語ろうとしない。
それでも構わない。
書くべきことは、語られないものの中にこそあるのだから。
言葉は届かなくていい。
ただ、どこかで誰かのまぶたの裏に、
一瞬でも「引っかかる」ことがあれば、それでいい。
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