灯影ユウ さんの日記
2025
6月
5
(木)
22:13
本文
――灯影ユウが見つけた、小さな幸せ
壊れゆく中でしか見えなかった「景色」
病室の窓から見える空は、毎日ほんの少しずつ色が違う。
点滴を受けながら、ぼんやりと外を眺めていると、ふと気づいた。
「こんなにも空って、表情があるんだ」と。
元気なころは、そんなこと考えたことすらなかった。
朝焼けが桃色に染まる時間。
雲がほどけていくように流れる様子。
夕暮れに重なる街の輪郭。
どれも、今の私にはまるで音楽のように感じられた。
体が動かなくなってから、ようやく心が感じることを始めたのかもしれない。
「ありがとう」を言われた日
ある日、病室で同じフロアの年配の女性が、歩行器を押しながら私のところに来た。
私はただ窓のそばに座っていただけ。
でもその方は、「いつも、静かに笑ってくれるのが、救いなの」と言った。
驚いた。私はただ、うつむきながらも笑い返していただけだったのに。
誰かの中に、私が“救い”として残ることがあるなんて。
その日、自分の存在が“まだ価値を持っている”と、ほんの少しだけ信じることができた。
爪の先に戻ってきた「色」
抗がん剤の副作用で、爪が真っ黒になった。
それが数か月たって、ほんの少しずつピンクに戻ってきたのを見たとき、不意に涙がこぼれた。
たったそれだけ。
でも、私にとっては「生きている証」だった。
誰かにとっては取るに足らない変化かもしれない。
でも、こんなにも苦しい日々の中で、それは光のかけらのように輝いて見えた。
小さな幸せは、いつも無言でやってくる
がんと向き合う日々に、劇的な幸福なんてない。
だけど、本当に心が癒されるのは、いつだって“そっと”やってくる。
静かな午後。
温かいお茶を飲んだときの香り。
誰かがそっと置いてくれた差し入れのパッケージ。
目が合って、何も言わずに笑い合えた一瞬。
そんな何でもないような出来事の中に、私は「まだ心がここにある」と感じていた。
終わりに――生きていて、よかったと思える一瞬のために
小さな幸せは、大きな痛みの中に隠れている。
でも、それを見つけられる自分になれたことが、私にとっての希望。
誰かが言った「生きていてよかったと思えるのは、一瞬で十分だ」という言葉が、いまならわかる気がする。
私は、その一瞬に出会えたから、今日もまだ生きている。
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