スピカ さんの日記
2022
10月
22
(土)
08:50
ベクトルの彼方で会いましょう
本文
初対面の人だというのに万が一にも時間に遅れたりしたら
面目丸つぶれだし、何よりも人としての資質を疑われると
思って大福はずいぶん余裕をもって家を出たのであるが
そういうときに限って道路はすいすい流れ、大福は
約束の場所に待ち合わせ時間の2時間も前に到着して
しまったのである。
まあ、遅刻するよりいいか。
大福はとりあえず車から降りて公衆トイレに入り用を足し、
入念に手を洗ってから鏡に映る自分の顔を検分してみた。
そして今回のために購入し、熟読していた「女性に好印象を
与えるための7か条」を参考にイケてる笑顔を作る練習を
始めたのだがこれが何度やってもなかなか上手くいかず
顔の筋肉が肉離れを起こしそうである。しばらく時間を忘れて
自分の顔をこねくり回していたのであるが、ふと気づくと
トイレの入口付近で掃除のおばちゃんが固まっているのが
目に入り、大福は慌ててその場を離れた。
まずいところを見られてしまった。顔から火が出そうである。
大福は気を取り直し、長時間の車の運転で強張った体を
ほぐすためストレッチをすることにした。ゆっくりと手足の
曲げ伸ばしをしてみたがこの日のために用意した真新しい服を
着ているので体に馴染んでいなくて動き難いことこの上ない。
それでもストレッチを続けていると屈伸でしゃがんだ時に
あろうことかズボンの尻の部分がべりべりと裂けてしまった。
一瞬青ざめた大福であるが車のトランクのなかには仕事用の
体に馴染んだ作業服が入ってるから大丈夫だと大福、あくまで
ポジティブである。
狭い車のなかで裂けた一張羅から馴染んだ作業服に着替えた
大福は何かが吹っ切れた気がした。取り繕うことなんて何も
なく、ありのままの自分を見てもらえばいいと。それでダメなら
縁がなかったと思えばいいじゃないか。
なんだかんだで待ち合わせ時間が迫ってきた。
ある意味開き直ってしまった大福であるが、それでも緊張感は
高まってくる。大福は携帯を取り出し画像フォルダに大切に
保存していたこれから顔を合わせる女性の写真を眺めた。
彼女の写真を見ながら、大福は友人のハッチが
忠告してくれたことを思い出していた。
なあ、丸ちゃん、お前は世間知らずだから教えておいてやる
けどな、その手の写メってのはたいてい何かの加減で実物より
見栄えよく撮れた「奇跡の一枚」ってのが送られてくるんだよ。
知らないだろ?そうだなあ、実物は1割から2割差し引いて考えた
ほうがいいな。まあ写メの半分くらいのレベルと思ってりゃ
それほど落胆はしないさ。けれど悪くすると写真とは
似ても似つかない別人が来る。
ハッチはそういうことを言ったのだった。
アホかと大福は思う。容姿なんてただの見た目じゃないか。
俺はそんな薄っぺらい興味で彼女と会おうとしてるんじゃないぞ。
男とか女とかじゃなく、容姿がどうこうじゃなく、純粋な
人間性への興味から会ってみたいと思ったんだよ。
だいいち俺が人の容姿に注文をつけられるような顔か。
それほど身の程知らずじゃないわボケ。
そりゃ異性と会うんだから高揚感とか期待感とかが
ないわけじゃないし、昨日の夜はどんな感じの人なんだろう、
感じの良い人ならいいのになぁなんてことをいろいろ考えてたら
なかなか寝付けなくて俺は寝不足なんだよコノヤロー
ぶつぶつぶつぶつ・・・
そんなふうにぶつぶつと小声で独り言を言ってると
後ろからそっと肩をたたく人がいた。
「大福さん?」
大福はイケてる笑顔を作るのも忘れたまま、
ゆっくりと振り返った。
面目丸つぶれだし、何よりも人としての資質を疑われると
思って大福はずいぶん余裕をもって家を出たのであるが
そういうときに限って道路はすいすい流れ、大福は
約束の場所に待ち合わせ時間の2時間も前に到着して
しまったのである。
まあ、遅刻するよりいいか。
大福はとりあえず車から降りて公衆トイレに入り用を足し、
入念に手を洗ってから鏡に映る自分の顔を検分してみた。
そして今回のために購入し、熟読していた「女性に好印象を
与えるための7か条」を参考にイケてる笑顔を作る練習を
始めたのだがこれが何度やってもなかなか上手くいかず
顔の筋肉が肉離れを起こしそうである。しばらく時間を忘れて
自分の顔をこねくり回していたのであるが、ふと気づくと
トイレの入口付近で掃除のおばちゃんが固まっているのが
目に入り、大福は慌ててその場を離れた。
まずいところを見られてしまった。顔から火が出そうである。
大福は気を取り直し、長時間の車の運転で強張った体を
ほぐすためストレッチをすることにした。ゆっくりと手足の
曲げ伸ばしをしてみたがこの日のために用意した真新しい服を
着ているので体に馴染んでいなくて動き難いことこの上ない。
それでもストレッチを続けていると屈伸でしゃがんだ時に
あろうことかズボンの尻の部分がべりべりと裂けてしまった。
一瞬青ざめた大福であるが車のトランクのなかには仕事用の
体に馴染んだ作業服が入ってるから大丈夫だと大福、あくまで
ポジティブである。
狭い車のなかで裂けた一張羅から馴染んだ作業服に着替えた
大福は何かが吹っ切れた気がした。取り繕うことなんて何も
なく、ありのままの自分を見てもらえばいいと。それでダメなら
縁がなかったと思えばいいじゃないか。
なんだかんだで待ち合わせ時間が迫ってきた。
ある意味開き直ってしまった大福であるが、それでも緊張感は
高まってくる。大福は携帯を取り出し画像フォルダに大切に
保存していたこれから顔を合わせる女性の写真を眺めた。
彼女の写真を見ながら、大福は友人のハッチが
忠告してくれたことを思い出していた。
なあ、丸ちゃん、お前は世間知らずだから教えておいてやる
けどな、その手の写メってのはたいてい何かの加減で実物より
見栄えよく撮れた「奇跡の一枚」ってのが送られてくるんだよ。
知らないだろ?そうだなあ、実物は1割から2割差し引いて考えた
ほうがいいな。まあ写メの半分くらいのレベルと思ってりゃ
それほど落胆はしないさ。けれど悪くすると写真とは
似ても似つかない別人が来る。
ハッチはそういうことを言ったのだった。
アホかと大福は思う。容姿なんてただの見た目じゃないか。
俺はそんな薄っぺらい興味で彼女と会おうとしてるんじゃないぞ。
男とか女とかじゃなく、容姿がどうこうじゃなく、純粋な
人間性への興味から会ってみたいと思ったんだよ。
だいいち俺が人の容姿に注文をつけられるような顔か。
それほど身の程知らずじゃないわボケ。
そりゃ異性と会うんだから高揚感とか期待感とかが
ないわけじゃないし、昨日の夜はどんな感じの人なんだろう、
感じの良い人ならいいのになぁなんてことをいろいろ考えてたら
なかなか寝付けなくて俺は寝不足なんだよコノヤロー
ぶつぶつぶつぶつ・・・
そんなふうにぶつぶつと小声で独り言を言ってると
後ろからそっと肩をたたく人がいた。
「大福さん?」
大福はイケてる笑顔を作るのも忘れたまま、
ゆっくりと振り返った。
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