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私はまぬけである。
幼少の頃から至らない言動ばかりであったため、親戚間や隣近所では絵に描いたような凡人（と認識されていた）私の父と組み合わせて「トンビがバカ生んだ」と言われていた。小学校の時分にはふと思い立って雨樋を伝って校舎から中庭へ降りてゆき、教師達を恐慌させた。

中学では殆ど授業に出ず遊んでばかりいたし高校でもアルバイトに明け暮れた。大学受験では雪の中をスケートボードで試験会場へ向かい、転倒して頬の骨にひびを作った上にそれとは無関係に志望校に落ちた。大学は生活費と学費を自分で稼げると踏んで入ったがその見通しは甘いもので、学部2年の終わりに中退した。就職してからは頻繁に営業活動に失敗して会社に損失を出した。その他にも大崎駅と間違えて大阪駅へ行く、誤って自分が在籍しなかった小学校の同窓会に出席する等、現在に至るまで数多の失敗を重ね、もの忘れをしたり一桁の足し算を間違えたりしながら日々を送っている。

こんな有様で曲がりなりにも日々を送れるのだから世の中というのは不思議なところである。世の他の人は概ねまぬけではなく立派で、それゆえ大変なこともありそうに見受けられる。私はまぬけでない人々を羨むことがあるが、生きていて感じる喜びはあまりまぬけさの影響を受けないのではないかとも思っている。まぬけでも充分楽しい。

まぬけな人物がまぬけでなくなることは難しいので、私は今後もまぬけのまま生きて死ぬことになるであろう。私の他にもまぬけの人生街道を行く者はある。まぬけでない人がまぬけになれるのかは私には分からないが、気が向いたらこの街道を歩いてみて頂きたい。きっとその道中は陽気である。