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他人のしていることは分かりにくいものである。
例えば私の知人には建築現場で働いている人がいる。私はずいぶん長い間、彼が現場に届いた鉄骨やその他の資材を加工して釘やボルトなどを打ち込み、コンクリートを流し込んで成形し、外壁を塗装し、内壁に壁紙を張り、電線や配管等を壁の中に這わせるのだと思っていた。
ある日彼から「そんなに何でもかんでもできるわけないだろう」と言われて私は驚いた。建築現場には板金なら板金、塗装なら塗装をする役割の人がそれぞれ来てそれぞれの作業をするのが普通である。常識の範囲に属することであると思うがとにかく私はそれを知らなかった。

他人の仕事のことに限らず、知らないことや分からないことを何となく憶測して誤解してしまう、つまり思い込んでしまうことが私には多い。
私はかつて海の波打ち際に立って水平線を見た時、「あれはきっと5,000kmくらい向こうだ」と思って暫くそれを信じていた。実際には5kmくらいなので、これほどかけ離れた数値をなぜ勝手に作り出して信じ込んでいられたのか不思議である。

業界における業務の役割分担や水平線までの距離はまだ思い込みと真実の間の決着を見やすい。もっと困るのは主観的な事柄の場合である。
私はかつて「自分にはジーンズは似合わない」と言うある人に会った。私はそう思わなかったので「似合うはずだ」と主張し、一緒に一本のジーンズを買いに行った。その人はその日から度々ジーンズを穿くようになり、時が経った後のある時に私が「前、自分には似合わないって言ってたよな」と言うと、「あれは思い込みだったかもね。今では気に入ってる」と答えた。そして私から見るとその人は「以前よりももっと」ジーンズが似合っていた。
この場合真実と呼ぶべきものが存在するのか不明ながら、それぞれの認識が何かと齟齬を来していたことは確かだろう。しかしそれが何なのかは分からない。

私の精神はきっと様々の思い込みで構成されている。私の思い込みというのは大体私に都合の良い内容で、また思い込みの通りに思っていればものを考えずに済んで楽であるという点でも都合が良い。都合の良いことずくめで結構であるが、夢の中に生きて死ねるほど世の中は甘くも醜くもない。
支払えないつけが回ってくるより前に、くだらないものから捨ててゆこう。