40代・50代・60代・70代の友達作り・趣味探し・交流サイト

午後6時は１番空いている時間帯なので
ジムの小さな露天風呂を一人占めだった。
ビルの谷間、四角く切り取られた空に半月が出ている。
この風呂から月が見えたのは今日が初めてだ。

顔見知りのご婦人が入ってきたとき、轟音とともに飛行機が過ぎった。

｢もう２年も飛行機に乗ってないわ。生きてるうちにまた海外へ行ける日が来るかしら｣
80をとうに超えたご婦人なので心からの言葉なのだろう。

｢でも、20年以上遊び倒したから思い残すことないわ｣

ご主人が大変な仕事人間で、定年退職してから待望の免許を取り、一気に日本全国を周り、それから行きはじめた海外旅行に嵌まってヨーロッパだけで15回とか。
いつもジムの入口で待っている、小柄で物静かなご主人にそんなバイタリティかあったのか。

｢私ももう長いこと海外へ行ってません。早く行けるようになるといいですね｣

｢あなたなんか、まだこれから20回でも行けるわよ。人生これからじゃない。私なんか、すべて60才から始まったのよ｣

さあ、おとうさんが湯冷めしちゃうからお先にね、とご婦人が出たあと
またしばし露天風呂を一人占めして半月を眺めた。
日が長くなった。