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かなり前にこのブログにある知人のことを書かせて頂いた。私はあまり私の話が通じず、私と大きく異なる常識を持つ彼のことを苦手としており同時に好ましくも思っている。

昨日の夕刻に彼から連絡を受けた。
「お前いまD駅に住んでるんだったよな」と開口一番に彼は言うが、駅に住むことは誰にもできない。その後に続いたのは今日の仕事の現場が偶然にもD駅に近いので夕食を一緒に摂らないかという誘いであった。彼はいつも間が悪い。今日の私は居候先の姉の夕食を用意する立場であったし、緊急事態宣言の延長が知らされてから随分経つ。
理由を話して断ると、「え！？お前姉ちゃんいたの！？」と彼は驚いた。しかし彼は過去に何度か私の姉に会って話をしている。彼女を何だと思っていたのか気になったが彼に関してはそれくらいのことを追求していたらきりがないので、とにかくどこかで落ち合ってコーヒーと煙草だけでも一緒に、と提案した。
「おう、じゃあD駅まで車で迎えに行くわ」と彼は言い、私の返事を聞かないまま通話を切った。D駅のどこに何時頃かは彼が到着するまで不明となった。

十数分後に彼はD駅に到着して私を自動車に乗せ、驚くべきことに彼の昨日の仕事の現場まで連れて行った。そして自販機で缶コーヒーを2本買って1本を私へ手渡し、現場の喫煙所に私を導いた。コーヒーと煙草を一緒にと言ったら通常は喫茶店を思いつくのではと私は思いながら、諦めて煙草に火を点けた。彼より後の仕事を担当する人々に怪訝な顔をされながら吸う煙草はいつものような味がしなかった。

「俺、コロナかも」と彼は煙草を吸いながら唐突に言った。
「症状は？」と私は尋ねた。
「無い」
「そうか」
「パチンコ行かない？」
「行かない。帰って夕食作らなきゃ」
「スロットは？」
「行かない。駅まで乗せて行ってくれ」
「おう」
思い返すに奇妙な会話であるが、彼に対しては私の感覚は半ば麻痺している。日中に私を支配していた眠気もあり、彼に挑む気力はその時の私には無かった。

帰宅して夕食を作りながら姉に一連の出来事を話すと、姉は文字通り腹を抱えて笑った。私は自身が非常識であることを知っているので彼を笑う気にならないし、姉も非常識の部類であると思うので彼のことを笑うのが滑稽に見える。しかし激務の混乱から自分の身体が回復しつつあること、姉が面白そうに笑っていることが有り難く、彼はほんとうは間の良い人なのかもしれない、感謝しよう、と思い至った。
救いの手は思わぬ形で思わぬ時に訪れることもある。