しき さんの日記
2020
10月
7
(水)
18:15
本文
今日話をした83歳のおじいちゃんから
「昔『お金の〇〇(こっちが本家)田地の〇〇』
と2軒並べて呼ばれていた、お宅の本家は今はどうなってる?」
と聞かれた。
私はある意を込めて
「本家は没落しました」と答えた。
本家は地元では指折りの地主で、多くの使用人を使っていた。
家を切り盛りするのは、当主の奥さま(おばあさま)だった。
当主は医者だったと聞いている。
田舎では何か事があると、本家にいろいろなものを借りに行くのが、分家の有りよう…
それは客人用のお布団や座布団から食器に至るまで…蔵の無い分家には、置く場所が無いから。
当時は買い揃えるお金もなかったのだろうと思う。
ある時、子どもだった母が兄と一緒に荷車を引いて、本家に脚付き膳を借りに行った。
何かお目出度い事でもあったのかも知れない。
無邪気に表門から入って行った子どもに、おばあさまはピシャリと言った。
「お前たちは裏門からお入り」
母は
「本家のおばあさんには、私たちが汚い子どもに見えたに違いない」
「その時、本家からはもう何も借りない!と心に誓った」と言っていた。
おばあさまの真意は分からない。
もしかしたら子どもたちに、常識を教えてくれただけかも知れない。
けれど、それを聞いた当時の私には、母の悔しそうな口ぶりだけが心に残った。
10年ほど前のある日、物置の片付けをしていたら、奥の方に、やけに場所を取っている物を見つけた。
古びた包み紙のままのそれを開けたら、中から出てきたのは、和紙に包まれた脚付き膳だった。
いつの間に買ったのか、30人分の塗りの御膳一式…
母に尋ねたら「そう言えば買ったわ」と言う。
買ってはみたものの、時代が変わり、今では集まり事には場所を借りる様になり、仕舞いっぱなし
って所か…
私は大きな衣装ケースに、和紙に包まれたままの塗物の碗を入れ、御膳は新聞紙に包み直して物置に仕舞った。
母の悔しさと意地が、もはや不要な御膳一式を買わせたのだろう。
そう思うと切なかった。
多分今後も表には出ない御膳。
処分する気にはならず、お正月にでも使ってみようかな?とは考える。
御膳を並べたら、母は何と言うだろう
借りたの?だろうか。
昔ね…と話し始めるだろうか。
本家は没落した。
菩提寺に旅のお坊さんが寄った時に、先祖代々の墓を見て
「このお墓の家は、失くなったでしょう」
と言ったと言う。
その頃には、まだなんとか体裁を保っていた本家…
戦後の波を乗り越えられなかった。
最近亡くなった何代目かは、本ばかり読んでいる人だった。
家は朽ち果てて無く、土蔵を改築したワンルームは、本が天井までギッシリだった。
息子は別のあばら家に住んでいて、新盆の挨拶に行った私たちに顔も見せない。
旅のお坊さんはこうも言ったそうだ。
こんなに人を見下す様なお墓の家は
最後にはきっと没落します。
「昔『お金の〇〇(こっちが本家)田地の〇〇』
と2軒並べて呼ばれていた、お宅の本家は今はどうなってる?」
と聞かれた。
私はある意を込めて
「本家は没落しました」と答えた。
本家は地元では指折りの地主で、多くの使用人を使っていた。
家を切り盛りするのは、当主の奥さま(おばあさま)だった。
当主は医者だったと聞いている。
田舎では何か事があると、本家にいろいろなものを借りに行くのが、分家の有りよう…
それは客人用のお布団や座布団から食器に至るまで…蔵の無い分家には、置く場所が無いから。
当時は買い揃えるお金もなかったのだろうと思う。
ある時、子どもだった母が兄と一緒に荷車を引いて、本家に脚付き膳を借りに行った。
何かお目出度い事でもあったのかも知れない。
無邪気に表門から入って行った子どもに、おばあさまはピシャリと言った。
「お前たちは裏門からお入り」
母は
「本家のおばあさんには、私たちが汚い子どもに見えたに違いない」
「その時、本家からはもう何も借りない!と心に誓った」と言っていた。
おばあさまの真意は分からない。
もしかしたら子どもたちに、常識を教えてくれただけかも知れない。
けれど、それを聞いた当時の私には、母の悔しそうな口ぶりだけが心に残った。
10年ほど前のある日、物置の片付けをしていたら、奥の方に、やけに場所を取っている物を見つけた。
古びた包み紙のままのそれを開けたら、中から出てきたのは、和紙に包まれた脚付き膳だった。
いつの間に買ったのか、30人分の塗りの御膳一式…
母に尋ねたら「そう言えば買ったわ」と言う。
買ってはみたものの、時代が変わり、今では集まり事には場所を借りる様になり、仕舞いっぱなし
って所か…
私は大きな衣装ケースに、和紙に包まれたままの塗物の碗を入れ、御膳は新聞紙に包み直して物置に仕舞った。
母の悔しさと意地が、もはや不要な御膳一式を買わせたのだろう。
そう思うと切なかった。
多分今後も表には出ない御膳。
処分する気にはならず、お正月にでも使ってみようかな?とは考える。
御膳を並べたら、母は何と言うだろう
借りたの?だろうか。
昔ね…と話し始めるだろうか。
本家は没落した。
菩提寺に旅のお坊さんが寄った時に、先祖代々の墓を見て
「このお墓の家は、失くなったでしょう」
と言ったと言う。
その頃には、まだなんとか体裁を保っていた本家…
戦後の波を乗り越えられなかった。
最近亡くなった何代目かは、本ばかり読んでいる人だった。
家は朽ち果てて無く、土蔵を改築したワンルームは、本が天井までギッシリだった。
息子は別のあばら家に住んでいて、新盆の挨拶に行った私たちに顔も見せない。
旅のお坊さんはこうも言ったそうだ。
こんなに人を見下す様なお墓の家は
最後にはきっと没落します。
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