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tinc さんの日記
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tinc さんの日記

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2020
8月 17
(月)
22:03
霧の中の心
本文
今日は早番の勤務で夕方早くには退勤していた。携帯電話に姉からの連絡が入っており勤務先まで迎えに来るようにとのことであったので、普段とは逆方向の電車に乗って姉の勤務先まで行った。

姉が迎えに来いと言う時は彼女が精神の失調を来した時である、と私は勝手に思っている。珍しく黙り込んで下を向いて歩くようになる。いつもと違う様子には見えるが内面は見えないので何がどう違うのかは分からない。姉は私のように精神科の診断を受けていない。放っておけば延々と喋っているのが通常の姉がその時には黙っていて、自動車を運転するわけでもない私にただ迎えに来いと命じ自宅まで付き添わせるということが何かの異変の訴えであると私が考えているに過ぎない。

姉の現在の勤務先はとある半官半民の建造物の中にある。エントランスまでは誰でも入れるようになっていたので、自販機でお茶を買って飲みながら突っ立っているとエレベーターのドアが開いて姉が姿を現した。下を向いていた。
私は姉の鞄を取り、その後姉の自宅までを同行した。途中姉は無言で私の持っていたペットボトルを取り一口飲んだ。自宅の前で「ありがとう」と短く言い、声を聞いたのはその時だけであった。

私が自分のアパートに戻る頃、再び携帯電話に姉からメッセージが入った。「π」とだけ書かれていて、これは私がしばしば円周率の不思議に取り憑かれたようになることから来ている。何も伝えることが無く生存のみを連絡する時の、姉と私の間でのみ通用する手段である。

姉の様子を見て心配はあるものの、心配は不安や焦燥と同じく役に立たないか害になることのほうが多いという考えから、私は事実を見極めようとしている。しかし糸口は見つからず事実と呼べるものは現時点で私に把握されていない。物事が曖昧模糊として霧の中を歩くようであるのは私にとってはありふれたことである。それでもなお、誰かの心なるものが関与する類の事態は私の関心を捕らえて放さない。
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