tinc さんの日記
2020
6月
3
(水)
17:17
本文
私は色々なものを諦めて現在に至っている。恋人ができること、結婚すること、お金持ちになること、名声を得ること等、世間並みのことは全て昔に諦めた。諦めると気持ちがとても楽だし、何かを諦める度に自由を得た感じがする。現に諦めたことのためには時間と労力を費さなくなるので楽になっているはずで、自分には諦める技術のようなものがあるように感じていたところだった。しかしそれは今日のつい数時間前に覆った。
衣料品関係で自営業の真似事みたいなことを始めようとしているので、以前からお世話になっているお店の主であるある人に相談に行った時のことであった。
私は雑談のような話の中でその人へ上のような価値観を語り、「だから私の事業は趣味に毛の生えたもので良いし、黒字を望むものではない」ことを述べた。諦めることで自由になれる、と。
ところがその人からは「諦めても無駄ですよ。予測つきませんから」との返答が返ってきた。
詳細を尋ねると、その人曰く「みんな成功させようとして事業を始めるけど、みんなが成功するわけではない。同じように不採算の事業がいきなり化けることもよくある。あなたが今やろうとしていることは最初から赤字のつもりで、他のところでお金を稼いでやろうとしているものなので、あなたの意志が継続する限り事業も継続する見込みが強い。継続していれば認知されて普及する可能性がある。衣料品業界はあまりに長い不況の中で大手企業が相次いで弱体化・倒産の動きを見せており、また製品の均質化で消費者も飽きているから、あなたが打ちだそうとしている製品は一部の人の印象に残るであろう。私が事業を始めた時も最初は副業をしていたが、本業にも打ち込んでいると認知が広がってお金がついてきた」とのことであった。
「それは可能性の話ですよね」と私は言った。
「可能性ですからあり得る話ですよ。『無い』と思い込んでたら痛い目を見ますよ」とその人は平坦に答えた。
「利益が無いつもりのところに利益が発生したら痛い目を見ますか」
「見ます。浮かれて散財なり脱税なりしますよ。何より目先の利益しか見えなくなって下手ばっかり打って、それこそ本当に継続できなくなるかもしれませんよ」
「諦めていても可能性があるんですか」
「それはあなたが諦めているだけの話でしょう。商売なんかひとの都合があるんだから分からないですよ。あなたの商品を買いたい人がいたら売るでしょう。人生そんなに簡単に予測できるんだったら、諦めることもなかったんじゃないですか」
私は何も言い返せなくなり、「確かにそうですね」とだけ答えて後は沈黙するばかりだった。
その人のところを去った後、帰り道には何か不思議な心持がした。「絶対に諦めるな」と言われれば頑として諦めてやる自信もあるが、「諦めても無駄」というのは奇妙な説得力を帯びて私の頭に残った。
考えてみれば言われた通りで、諦めることで運命を制御できるというのなら全てが思い通りにゆくことになり、諦めるという言葉の意味するところからは随分外れてくるように思う。
少し混乱しているものの、評価がついて来なくても好きなようにやろうという初心が埃を払われて輝きを取り戻したかのように感じる。
無理だと思ったら続かないだろうが、まだ何の結論も出ていないのだ。
衣料品関係で自営業の真似事みたいなことを始めようとしているので、以前からお世話になっているお店の主であるある人に相談に行った時のことであった。
私は雑談のような話の中でその人へ上のような価値観を語り、「だから私の事業は趣味に毛の生えたもので良いし、黒字を望むものではない」ことを述べた。諦めることで自由になれる、と。
ところがその人からは「諦めても無駄ですよ。予測つきませんから」との返答が返ってきた。
詳細を尋ねると、その人曰く「みんな成功させようとして事業を始めるけど、みんなが成功するわけではない。同じように不採算の事業がいきなり化けることもよくある。あなたが今やろうとしていることは最初から赤字のつもりで、他のところでお金を稼いでやろうとしているものなので、あなたの意志が継続する限り事業も継続する見込みが強い。継続していれば認知されて普及する可能性がある。衣料品業界はあまりに長い不況の中で大手企業が相次いで弱体化・倒産の動きを見せており、また製品の均質化で消費者も飽きているから、あなたが打ちだそうとしている製品は一部の人の印象に残るであろう。私が事業を始めた時も最初は副業をしていたが、本業にも打ち込んでいると認知が広がってお金がついてきた」とのことであった。
「それは可能性の話ですよね」と私は言った。
「可能性ですからあり得る話ですよ。『無い』と思い込んでたら痛い目を見ますよ」とその人は平坦に答えた。
「利益が無いつもりのところに利益が発生したら痛い目を見ますか」
「見ます。浮かれて散財なり脱税なりしますよ。何より目先の利益しか見えなくなって下手ばっかり打って、それこそ本当に継続できなくなるかもしれませんよ」
「諦めていても可能性があるんですか」
「それはあなたが諦めているだけの話でしょう。商売なんかひとの都合があるんだから分からないですよ。あなたの商品を買いたい人がいたら売るでしょう。人生そんなに簡単に予測できるんだったら、諦めることもなかったんじゃないですか」
私は何も言い返せなくなり、「確かにそうですね」とだけ答えて後は沈黙するばかりだった。
その人のところを去った後、帰り道には何か不思議な心持がした。「絶対に諦めるな」と言われれば頑として諦めてやる自信もあるが、「諦めても無駄」というのは奇妙な説得力を帯びて私の頭に残った。
考えてみれば言われた通りで、諦めることで運命を制御できるというのなら全てが思い通りにゆくことになり、諦めるという言葉の意味するところからは随分外れてくるように思う。
少し混乱しているものの、評価がついて来なくても好きなようにやろうという初心が埃を払われて輝きを取り戻したかのように感じる。
無理だと思ったら続かないだろうが、まだ何の結論も出ていないのだ。
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