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千葉と静岡からだと、何処が真ん中になるだろう？
との思い付きで、二人が出会う場所は鎌倉に決まった。

ずっとSNSでやり取りをしていて、初めて会う事になった人。
イメージ通りの人だろうか？
私はどうなんだろう？
と、鎌倉駅のトイレでのチェックが念入りになる

一度だけ写真を交換し、特徴を教え合っていた。
身長は183㌢、スキンヘッドの頭にはバンダナ、車はHONDA。

駅前に立っていると、静岡ナンバーの車がやって来た。
軽く手をあげた私を認めても、止まらずに運転席側からの手振りで、もっと前に行けとのサイン。
せっかく一番の笑顔で出迎えたのに…とちょっと悄気る。


車のドアを開けると「早く乗って！」と急かす声。
「さっきから、何回かここを周回してるんだけど、停めて置くと警備員が来るもんで」

用意していた挨拶は、そんな第一声で消えた。

二人とも車好きだったので、一日中ドライブ。
紫陽花が咲く明月院では、並んでお抹茶を頂き、野生のリスの鳴き声に二人、いたく反応する。
建長寺、鶴岡八幡宮等の神社仏閣巡りからの江ノ島。

車にずっと乗っていたので顔を合わせたのはランチの時だけ。
当時流行りだった鎌倉のイタリアンのお店だった。

文章から受けていた印象と、実際に会っての印象は変わらなかった。
(相手もそうだったらしい)
見た目よりずっと紳士で、正面から顔を見られない程の照れ屋。
沈黙の気まずさを怖れたのか？車内では前方を見たまま、よく喋った。
私は、ほぼ聞き役。

当時の彼はイラストで生計を立てていた。
ｷﾞﾘｷﾞﾘで売れなかったミュージシャン
お土産には自分の曲をCDに焼いてきてくれた。
CMソングで収入を得ていた時もあった、と言うだけあって、曲はどれも素敵だった。
私からはニットのワッチ。

楽しかったなぁ
そして若くて恐れ知らずだった。
今みたいにネットに偏見が無い時代では無く
会うにはかなりの勇気が要った。

それからも横浜、御殿場、幕張、都内 等、一年に一度くらいは会っていた。
最後に会ったのは、大雪の降った東京…帰れなくなると困るので、会ってすぐのサヨナラだった。

彼との連絡が自然消滅した今は
思い返して、懐かしいだけの昔話だ。