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土曜日の朝、病院から連絡があった
頼んでいた診断書が出来上がった・・と
受け取りに行かねばなぁ～と、電車に乗ると
車内広告のある1枚にふと目が留まった
そこには、横浜港で停泊を余儀なくされてる
あのダイヤモンド・プリンセス号の写真が・・・

今や、全世界が恐怖に晒されてる新型肺炎で
船内に閉じ込められたまま？・・・
動かぬ船と一緒に過ごしてる内にも
毎日の様に感染者が増えている
折角の船旅が・・・とんでも無い事に
旅の途中で、命の危険に晒されてるのだから
どうやら費用は全額返金とか報道されてたけど・・・
この騒動が終わる頃に無事でいる人はいるのかな？


そんな事を考えてると、思い出した
私にも、幻となった世界一周の船旅があった事を・・


今から20年前位前になるだろうか・・・
私は、仕事で、ある顧客の家を訪問した
50代で脳梗塞を発症したこのお客さん（♂）は
何と私のアバターである500系の設計に関わった人だった
嬉しくて・・・
話が盛り上がったのは言うまでもない

それがキッカケとなり、私が担当者となった
来て欲しい時は連絡がある
最初の訪問からまもなく・・・3度目だったろうか？
書類のやりとりが終わると、何かゴソゴソしてたが
1枚の便箋みたいなのを見せられた
何やら、数字が書いてある
それと、日付と銀行名も・・・

　　　？・・・（何、これ？）

よく見ると、お金を預けた自分の覚書みたいなモノ？で
少なくても50万、殆どが100万、200万とかで
目でザックリ計算しても8桁はあったろうか・・・

　　　うぇっ！
　　　何で、こんなモノを私に見せるんじゃ？

更に、よく見ると・・・
日付が1日違いとかが何件かあった
どうやら自分の成績になる様に銀行員（某銀行）の
預け替えの餌食になっていた様な感じ・・（

　　　「全部で〇〇〇〇万円あります！」

はぁ・・・（ゴクン）
自分の生唾の音を耳にし、ただ頷くのが精一杯だった
見せてくれたのは定期預金の総額だが、
他に普通預金に幾らあるとか、家・土地は・・とか
言えば、この家の財産全部の金額を私に伝えてきた
私の頭は　聞くのが精一杯で・・・
何故それを私に見せてくれるのかが不明で
？？？のオンパレードであった
　　
何をどうしたいのだろうかと一生懸命考えた結果、
結局のところ、資産運用したいのだろうと思い
当時まだFPの資格を持って無かったので
私よりもお役に立ちそうな？上司を伴って
日を改めて訪問する事にし、再訪問したのは2日後・・・

ところが・・・
幾ら待てども、色々と金額を書いてあった便箋や
預貯金の話すら、全く出て来ない
あれ？
相手が出さないものを出せとは言えず・・・
苦笑いの上司共々、ひとまず一般的な話だけして
この場は引き上げたのだが、上司は拍子抜け顔・・・
そりゃ～、そうだ！
私が嘘をついたみたいになっちゃったし・・・
バツが悪いったらありゃしない

数日後・・・
また来て欲しいと連絡があった
その時は上司不在だった為、私1人で訪問する事に・・・
用事が終わり、帰ろうとした時に呼び止められた

　　　「ちょっとご飯でも食べに行きませんか？」

日頃、1人で寂しく食べてるのであろう事を思えば
断る気にもなれず、承諾したけど・・・
脳梗塞の後遺症で不自由な身体になっているので
ゆっくり歩いて近所の居酒屋さんへ向かう道中、
町内の掲示板だったろうか・・・
貼ってあった1枚のポスターの前で一瞬、足を止めた
じっと見ていたので、私も思わず見ると
それが、今、横浜港で停泊中のクルーズ船・・・
（当時、船の名前がどうだったかまでは憶えて無いが）
世界一周で〇〇〇万円と数字が書いてあった
私には関係無いや～と、チラ見しただけで通り過ぎたが、
これが食べてる時に話題として出て来た

　　「さっきの・・・一緒に行きませんか？」
　　　はぁ？
　
一瞬、何の事を言われてるのか判らず、キョトン・・・
すぐに、あのポスターの話だと気付いたが
私の、キョトン顔はまだ続いた

　　「行ってみたいんですよ
　　　あ、勿論、費用は出します！」
　　　え？え～～～？

おそらく・・・目は真ん丸になってたと思うが
いきなりパンチを食らった様な感覚だった
世界一周のポスターを必死になって思い出す・・・

　　　何日間とか言う感じじゃなかったぞ！
　　　世界一周だから・・・確か数ヶ月だった？

突然、降って湧いた話に頭の中はパニック！
戸惑いながら思うは、何で、私が？・・ばかり
そこで、ふと気付いたのが・・・
　　
あ～～、付き添いって事か～
いやいや・・・それでも私には子供達がいるし、
それを放っといて自分だけ行く訳にはいかない・・・
ごく短い時間ではあったが、冷静に考えた（つもり ）

　　　有り難いお話なんですけど・・・
　　　行きたいけれど、子供がいるんで放っておけないし、
　　　無理ですねぇ～
　　　
何か・・・そんな事を言うのが精一杯だった
それに対し、相手は、そうですか～と答え、
それから少し子供の話になった様な記憶がある
この後は、残念そうな顔をしていたが、普通に話して
その日はそれで帰った

数日後、同僚と久々のランチをして、この話をした途端、

　　「え～～
　　　世界一周なんて、何で断っちゃったの？
　　　勿体無い！！
　　　それって、プロポーズじゃないの？
　　　アホやなぁ～～！！
　　　だから、財産全て知って欲しいって見せたんや～
　　　〇〇ちゃん（私）はホント鈍感やなぁ～」

思いっ切り、大きな声でドヤされたのだ（笑）

　　　え～？
　　　プロポーズ？？？って・・・
　　　うっそぉ～！

思いがけない言葉に、また面食らう・・・
同僚は相変わらず、鈍感だの、勿体無いだの、
子供は何とかなるだの散々捲し立ててたけど・・・


こうして・・・
私の世界一周クルーズの話は、幻と終わった
あ～～～ぁ・・・


最近は、このポスターをあまり見かける事も無く
いつの間にか忘れてしまっていたのだけど・・・
このところ毎日の様にクルーズ船の話題になって
その度に・・・苦笑いしている

今なら・・・
聞いた瞬間、速攻で返事出来る
行きま～～～す！・・・と。


航海、いや、"後悔先に立たず"・・・とは
よく言ったものだなぁ～