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風まかせ さんの日記
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風まかせ さんの日記

 
2018
11月 8
(木)
08:33
色めくとき
本文
おそらく、文学に造詣を深めていらっしゃるハピ友さんのコメントに、中島敦さんの名があったので、季節はたがうが、思い出した。


現役のころ、独特な色彩世界をもつ写真家のRYさんと、よく取材の旅をした。

RYさんの写真は新鮮強烈な色づかいで、心「色めく」と形容したい作品であった。

RYさんに、「小笠原」の写真を見せてもらった。白い砂浜の小さな入江を見下ろした写真で、奔放に伸びる緑のガジュマルと水色の水面をゆるやかな時間が流れている。

RYさんは、写真を見ながらぽつりと言った。「いっしょに行こうよ。中島敦もね」


代表作『山月記』で知られる作家、中島敦(1909<明治42>年~1942<昭和17>年)は昭和11年、教諭をしていた高校の春休みを利用して小笠原を訪れた。

若いころから喘息の発作に苦しんでいた中島は、おそらく身体のなかの空気を入れ替えたいといった軽い気分で旅たったのだろう。

ところが中島は、小笠原の豊かな自然、とりわけ南国の激しくあたたかい色彩に圧倒されてしまった。


日記には、色彩の海を泳いでいるような中島がいる。

 熱帯樹ノ(風の)ソヨギノ良サ。赤チャケタ道ニ白イ珊瑚ノ屑ヲ敷ケリ。パパイヤノ匂。スグニモトレソウナリ。バナゝノ花ハ黒紅色ノビロウドノ如キ大輪ナリ。
 
小笠原の色は山の上から俯瞰すると、南の光を得て、さらに輝いた。島の少年に案内されて、三月だというのに額の汗を拭きながら、岩山の斜面をてっぺんまで、よじ登るように上がった。彼方のバナナの青い畑にうらうらと陽がさし、海のようにきらきらと小さな波頭を立てている。

深く蒼い空と海に洗われた風が心地よい。小笠原諸島滞在中日記に、喘息発作の記述はない。

後年、中島は南洋の光と風を求めて、パラオに国語教科書編修書記として赴任する。しかし小笠原でなりを潜めていた喘息が悪化、34歳の若さで世を去る。

『宝島』のスティーブンソンに材を得た作品で一躍作家の地位を確立した直後のことであった。作品は、南の島の色と光にも染められていたのだろう、『光と風と夢』と名づけられた。

小笠原諸島は古くは無人島で、日本人によって発見された。
小笠原に漂着し、しばらくこの島で生活して帰還した商人や船頭たちが、1670(寛文10)年、はじめてこの島の存在を報告している。

この報告に基づき、江戸幕府が代官にこの島を探検させたのが、小笠原初の探検調査の記録となった。

この無人島の存在は、日本が鎖国体制にあったにもかかわらず外国人にも知られるようになり、幻の島として「ボニン・シマ」(無人島が英語になまったもの)という名で呼ばれた。外国人ではじめて「ボニン・シマ」を訪れたのがイギリス人のビーチー。彼はこれを新発見と考え、この無人島がイギリス国王の領地である旨の標記を掲げて去った。

その後多くの外国人探険家が小笠原を訪れた。ペリーの日本訪問直前に行われた小笠原探検に同行したアメリカの詩人テーラーは、絵のように美しい島の風景と植物に感動した。


作家、中島敦が小笠原を訪れたのは昭和11年で、身体の調子がよいとき、登山や花の栽培など、耽美派らしい趣味を楽しんでいた中島は、南国への憧れが強く、小笠原の美しさに感動し短歌を詠んでいる。これが『小笠原紀行』になった。

みんなみの陽光うらうらと
わたつみの圓く明るく満ち膨れゐる
 
年を重ねると、それを補うためだろうか、思考が「色めく」。中島敦が小笠原で感じたように、美しいものに出会うと、心色めき、心が騒然となる。

●参考/『中島敦全集 第二巻』(筑摩書房)
画像 かつて展覧会でみたニキ・ド・サンファル「愛万歳」


閲覧(70)
カテゴリー
投稿者 スレッド
風まかせ
投稿日時: 2018/11/9 7:06  更新日時: 2018/11/9 7:06
プラチナ
登録日: 2018/7/11
居住地: 東京都
: 男性
投稿数: 273
 RE: 色めくとき
おはようございます おらこさん
コメントをありがとうございます。

中島敦は、人生は何もしないでいるとあまりにも長いが、何かをするにはあまりにも短い、といった意のことを言っています。

読みたい本が多すぎると、時間が少ないと思っています。
orako
投稿日時: 2018/11/8 23:40  更新日時: 2018/11/8 23:40
プラチナ
登録日: 2017/1/17
居住地: 岡山県
: 女性
投稿数: 1606
 RE: 色めくとき
こんばんは

読書家のお二人にはとてもついて行けませんが、
お話の中に出てくる作家さん、少しずつ勉強したりしています

中島敦、若くして亡くなったのに、海外を題材にしたり幅広い作品を残されているのですね。
「光と風と夢」サモアには借りるという言葉がない。物は皆貰ってしまうなど、そこだけ読んでも面白いですね。

お二人に刺激を受けて、もう少し暇になったら
本を沢山読む時間を取りたいなって思う今日この頃です。
風まかせ
投稿日時: 2018/11/8 21:47  更新日時: 2018/11/8 21:47
プラチナ
登録日: 2018/7/11
居住地: 東京都
: 男性
投稿数: 273
 RE: 色めくとき
こんばんは ミカママさん
コメントをありがとうございます。

中島敦は、心にしみいる言葉を多く残していますが、

人生は何かをなしとげるにはあまりにも短い、といった意の言葉が印象的で、残念でなりません。
ミカママ
投稿日時: 2018/11/8 20:43  更新日時: 2018/11/8 20:45
登録日: 2014/4/25
居住地: 東京都
: 女性
投稿数: 11102
 RE: 色めくとき
こんばんは。

風さん、中島敦を取り上げてくださって、感激です。
あまりにも若くして逝ってしまったので、暗く悲惨なイメージがあったのですが、小笠原を訪れていたのですね。

今でこそ小笠原は、希少な動・植物の宝庫で、観光化されていますが、昭和11年の頃は、もっと自然が豊かで、汚れの無い島であったろうと思われますね。
そのような美しき楽園を、中島敦が訪れたと分かり、安堵すると同時に、短い一生の中ですこしでも幸福な時があったのだと、嬉しい気持ちになりました。

中島敦のファンは、同じ文筆家、小説家にも多く、生きていればもっと沢山、素晴らしい作品を残してくれたと思います。

「小笠原紀行」と共に全集を読み返したいと、読書の秋にもの想うひと時でした。

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