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風まかせ さんの日記

 
2018
8月 11
(土)
07:57
水のように生きる
本文
現役のころの話。
仕事関係のAさんは、新潟出身で、東京に新潟料理の店があって、打ち合わせと称して、よく足を運んだ。

Aさんの父は新潟の新聞記者だったそうで、Aさんは、ぼくの仕事の広告コピーなどに興味をみせていた。


料理店では、我が家に招いたように、おいしい酒と料理をすすめ、締めはきまって「へき蕎麦」であった。

へき蕎麦は、新潟県魚沼地方発祥といわれ、つなぎに海藻を使った蕎麦を、ヘギ(木片)といわれる四角い器に盛り付けた切り蕎麦のことである。

薬味には刻みネギととともにからしを用いる。この地方ではワサビが採れなかったからだそうである。


Aさんは、酒好きヘビースモーカーで、この当時のぼくは煙草以外、気が合って、よくつるんで飲み歩いた。


Aさんは、かつて学生就職ナンバーワンの企業に勤めたが、あるとき、案の定というべきか肺癌が見つかった。

当時は、ガンサバイバーという言葉も考え方もなかったので、手術は成功したものの、いわゆるラインから外され、閑職に追いやられたと聞く。

退院後、回復祝いを仕事仲間と相談して、例の新潟料理店に集まった。

Aさんは、お酒はこれにしたいと、店の人に注文した。
出てきたのは、新潟の銘酒「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」であった。


Aさんはウンチクを言わせてくれと、話しだした。
「上善は水のごとし」というのは老子の言葉だそうだ。
どいう意味ですか?

最高の人生のありかたは、水のように生きるということだろうと思う。水は自分の存在を主張しないで、だれもが嫌うような低い方へと流れて、そこにおさまる。

水のようにしてこそ心穏かにすごすことができ、また円満な人間関係を創り上げることができるということだろうな。

Aさんは病を癒やすなかで、「すばらしいもの」を見つけたと、仲間の女子は目をうるませながら、「水に流せということよね、乾杯」とわけのわからないことを言って、盃を掲げた。

「ちょっと違う意味だよ」と言おうとおもったが、やめてた。

老子が生きた時代の中国は国同士の争いが絶えず、争うことで利を得ようという生き方が一般的だったという。

Aさんも仕事のなかで、誰もが「人よりも上に行こう」「人を蹴り落としてでも上を目指そう」などと躍起なって闘っていたのであろう。

そうしたなかで、病を負ったAさんは、さぞ悔しかったであろうが、「人と争わず、まるで水のように常に低いところに留まって生きようと心決めたのであろう。

そう思うと、ぼくの心も水のように清かになって、笑顔を重ね合い乾杯した。
もちろん「へき蕎麦」で締めた。
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